尖圭コンジローマの原因はヒトパピローマウイルス(HPV)の6型と11型
後藤さん(患者):え…そうなんですか。性病じゃないんですね!よかった〜。自分の目で確認できなかったんですけど、彼氏から「お前のアソコ(小陰唇)にブツブツみたいなのががあるぞ…」と言われて凄い心配だったんです。
ネットで調べたら、なんだか"尖圭コンジローマ"という性病に似てるんじゃないかって、二人で話してたんで、今日急いでクリニックを受診したんです。
え?これは"フォアダイス"って言うんですか。脂肪の塊なんですね。これでホッとしました。今日はありがとうございました。では♪
雅治(クリニック院長):お大事に。さて、これにて一件落着♪っと。うん、やっぱりデリケートな場所にブツブツやイボができたら、何か悪い病気にかかったんじゃないかって心配しちゃうよね。
じゃあ、次の患者さんを呼んで…って、あなた勝手に診察室に入ってきたら…うわ!お前はまさか…!
ヒトパピローマウイルス(HPV)6型:そう俺は尖圭コンジローマの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)6型だ。兄弟の11型と並んで、男性のペニスや女性の膣、子宮頸部、大小陰唇、肛門や尿道口に感染して、白色・ピンク・褐色・黒色のブツブツやイボなどの症状を引き起こすんだ。
100種類以上あるヒトパピローマウイルスのなかで、俺たち6型と11型は「低リスク型」に分類されている。「高リスク型」に分類されるヒトパピローマウイルスの16型や18型は子宮頸がんの原因となるから、女性の命までも奪うことがある。
それに引き換え、俺たち6型や11型はブツブツやイボに加えて、たまに痛みや痒みが加わる程度だから、実に"良心的"だろ。しかも、感染しても最初の約90日間は視覚的にもなんの症状も引き起こさない。
このようにレディーに対して気配りができるウイルスがこれからの時代はモテるんだよ。わかるよな、そこのお姉さん。
奈々(看護師):あなたたちウイルスが使う"良心的"とか"良識"という言葉ほど、自分勝手な解釈で成り立っているものはないわ。外見上の症状は治まったように見えても、感染者の4人に1人は3か月以内に再発するっていうのに。
リスクは低いものの妊娠時に感染していると、産道感染の可能性もあるってきいているし。不幸にも赤ちゃんに感染してしまった場合、喉にイボができて重症化すると死に至ることもある「呼吸器乳頭腫症」を発症するリスクもあるんですよね、先生?
呼吸器乳頭腫症は再発率が高く、幼い年齢でイボの除去手術を何回も受けなければならないから、ホント可哀想…。
うん、その通りだよ。尖圭コンジローマは油断できない立派な性感染症なんだ。ただし、診断は女性も男性もそれほど難しくない。というのもイボは"先端が尖っている"、"乳頭のような形"、"密集してできるとカリフラワーに似ている"、"鶏のトサカに似ている"など視覚的に特徴があるんだ。
上のイボの写真を見てもらえると、「尖っている」「カリフラワー」「鶏のトサカ」という表現があてはまることがわかると思うんだ。だから、尖圭コンジローマの診察経験がある医師なら冒頭の患者さんのようなフォアダイス(脂肪の塊)と見間違うことはないんだ。
しかし、尖圭コンジローマは診断自体は難しくなくても、どの程度の範囲まで広がっているかを確認するためには、膣や子宮頸部、外陰部をコルポスコピー(膣拡大鏡)で医師が直接観察する必要があるんだよ。女性医師が見るならまだしも、僕らみたいな男性が医師だと患者さんの精神的な負担も小さくない。
膣や肛門周辺にイボやブツブツがある場合、指先での感触で異物があるのは確認できるけど、視覚的に判断することは難しいこともある。尖圭コンジローマと思っていたら、上の写真のように性器ヘルペスの可能性もある。
尖圭コンジローマと間違えられることが一番多いのは、上の写真にあるフォアダイスという脂肪の塊だよ。冒頭で患者さんが少し触れていたけど、フォアダイスは性病じゃないから放置していても健康上のリスクはないし、パートナーに移ることもないんだよ。
一方、尖圭コンジローマの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は感染力が強いため、パートナーも感染している可能性が高いんだ。女性はセックスをする際、彼氏のペニスの亀頭、陰茎と亀頭の境目の溝、包皮、陰嚢(玉袋)、肛門の周囲にブツブツやイボがないかをさりげなく確認してあげるといいかもしれないね。でも「亀頭よし!包皮よし!肛門は…アウト〜〜〜!!!」とか口に出して言っちゃだめ。
自分が尖圭コンジローマの可能性がある場合、隠さずに打ち明けて、泌尿器科や皮膚科への受診をすすめて、二人で並行して検査や治療を受けることが大切だよ。
男性の場合、ペニスにできたブツブツやイボはかなり目立つから自分で発見するのは比較的容易だと思うんです。でも女性の場合は鏡を使わないと自分の目では確認が難しいから、かゆみや痛みを伴わない限り発見が遅れることもありそう…。
実際、クリニックを受診される女性の多くは、お風呂で洗っているときに偶然、指がブツブツやイボに触れたり、歩いているときに違和感のようなものを感じたのが、尖圭コンジローマを疑うきっかけになったと回答されていますよね。
従来の治療は、局所麻酔をしてから電気メスやハサミなどで直接除去したり、液体窒素で凍結壊死させたりするしか方法がなかったから、患者さんの心身の負担は大きかったんですよね。手術の傷跡が残った患者さんも少なくなかったと聞いていますし。
でも今ならイミキモド5%クリーム(商品名:ベセルナクリーム5%)という軟膏が治療の第一選択肢になっていますから、医師も患者さんも治療への取り組みがグッと楽になりましたね。
ウイルス:こ、こいつらときたら、模範解答をズラズラと並べやがって。取り付く島もないとはこのことだな。しかしだ!尖圭コンジローマは肛門や玉袋などコンドームで覆うことができない場所にも感染する限り、俺たちの感染を完全に予防することはできないんだぞ!
それにベセルナクリームがいくら優秀でイボを取り除くことができたとしても、イボ周辺のウイルスが残っていることが往々にしてある。これが尖圭コンジローマの再発に悩まされる男女が未だに多い理由だ。
「仕事が忙しいから」と外食やコンビニ弁当に頼る偏った食生活をしていたり、ストレスを溜めこんでいる人間は免疫力が低下しているから、特に再発リスクは高くなる。
すなわち、俺たちの戦いは終わっていない、むしろこれからが本番とも言える。油断していると痛い目にあうぞ!バタンッ(ドアが閉まる音)
行ってしまったか。奈々ちゃんの言う通り、ベセルナクリームが日本でも使えるようになって、尖圭コンジローマの治療はグッと楽になった。
ベセルナクリームは薬を塗った場所にヒトパピローマウイルス(HPV)6型と11型に対する免疫をつけることで、結果的にウイルスを追い出すという独特の作用をするんだ。ベセルナクリームの使用法は1日1回の塗布を週3日行うだけ。最長で16週間の使用が認められているよ。
厄介な尖圭コンジローマだけど、ワクチン接種で予防が可能なんだ。以前、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)16型と18型の話をしたときに、予防ワクチンとして「サーバリックス」と「ガーダシル」を紹介したんだけど覚えているかな。
このうち「ガーダシル」は、尖圭コンジローマの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)6型と11型の感染も予防できるんだ。気になる人は最寄りの婦人科に相談してみるといいと思うよ。
男性も女性も性器周辺にイボやブツブツのようなものができると、「イボだらけのアソコを彼氏(彼女)に見られるのはイヤだ!」とか「セックスをする気になれない」などの理由で、二人の関係がギクシャクしてしまい、結局別れてしまったカップルもいるみたいなの。
だから異常に気がついたら、なるべく早く医療機関へ行って医師の診察を受けることね。尖圭コンジローマはウイルス性の感染症なので、薬を塗ってイボがなくっても、別の場所に再発することがあるから治療は根気よく続けることが大切よ!