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過去最高の感染者数を記録!20代の女性に急増中の梅毒はキスやフェラでも感染します
奈々(看護師):エイズ以外のSTD(性感染症)が新聞やテレビで採りあげられることってあまりありませんでしたよね。たま〜に夕刊の生活面の隅っこのほうに掲載されている、医師への健康相談や人気医師のコラム欄でクラミジアや膣カンジダという単語がチラホラ登場するくらい。
それだけに2010年以降に感染が急拡大しはじめ2022年には過去最高の感染者数(10,141人:10月現在)が報告されたとして、「梅毒」がニュースで大きく報道されたのは驚きました。イントネーションの置き方が「梅↑毒↓」なのもテレビのニュースで初めて知りましたよ。
雅治(クリニック院長):そうだね。梅毒トレポネーマという病原微生物に感染して発症する梅毒はその歴史は長く、16世紀初頭に京都で大流行して死亡者が相次いだという文献が残っているくらいなんだ。
性病の"格"という点では、大将格の存在だったんだ、"だった"という過去形の表現になるのは、1940年代に特効薬のペニシリンによる治療が始まり、日本では1950年代の終わりごろには感染者数が激減したからなんだよ。
僕だって大学病院の勤務時代を含めて、梅毒の患者さんは数回しか見たことがなかった。このクリニックを開業してからもしばらくはゼロだったよ。婦人科や性病科、皮膚科の医師として長く活躍されている先生でもない限り、診察の機会はほとんどなかったんじゃないかな。
つまり梅毒は一度は"過去の病気"という扱い方をされていたのに、この10年で右肩上がりで感染者数が増加し、2014年以降は毎年のように過去最高の感染者数が報告されたから、大きなニュースとなっているんだ。
ひょっとしたら、今でも梅毒という単語を聞いたことが若い人は結構いるんじゃないかな。梅毒という文字を見て、「え、殺菌作用の強い梅干しで食中毒になるの?」とか言いそうな気がするよ。
……(そんな訳ないでしょ)。これまでにも一時的に梅毒の感染者が増えたことはありましたけど、それは粘膜が傷つきやすい肛門を使った性交、いわゆるアナルセックスを行う男性同性愛者に限定されていましたよね。
ところが、国立感染症研究所による「感染症発生動向調査(IDWR)」を読むと、異性間のセックスをしている一般の男女に感染者が増加し続けていますね。
うん。かつては梅毒の感染者の約80%が男性だったのに対し、今回の調査データを見ると女性の割合が約30%まで上昇している。なかでも増加の割合が顕著なのが20〜24歳の若い女性なんだ。
従来は男性の同性愛者の感染者が多かったということは、感染は男性間だけに限定されていたことになる。それが女性とのセックスが増えるに比例して女性の感染者も増えてきた。すると同性愛の性向を持たない男性も女性とセックスをすることで梅毒に感染するリスクが高まってくる。
つまり男性→男性の感染ルートが、男性→女性へと広がり、女性の感染者が増えたために今度は女性→男性という新たなルートが開拓されたために、梅毒の感染者が急増していると考えられているんだ。
またオーラルセックスのサービスを提供する風俗(主にピンサロ)を利用して性器に感染する男性、あるいは口腔に感染する風俗嬢が増えていることも感染者数の増加につながっているという意見もある。
実際、2016年に放送された「NHK クローズアップ現代+」で梅毒がテーマになった際には、梅毒の陽性反応が出た患者さんは風俗で働く20代の女性の割合が高いという現役医師のコメントが紹介されていたんだ。
お客1人当たりに60〜90分の時間をかけて性的なサービスを提供するソープランドなどに比べて、お客の"回転"が早いピンサロは、梅毒をもらったり、移したりするリスクも格段に高くなる。彼氏や夫がこれらのサービスを頻繁に利用しているなら、その彼女や妻が感染することも十分にあり得るんだ。
あと僕がこの調査データを見て気になったのは、妊婦さんが梅毒に感染して、胎盤を通じて胎児も感染させてしまう「先天性梅毒」の事例が10も報告されていたこと。
胎児が先天性梅毒に罹ると、流産や死産の可能性が高くなるし、仮に無事に生まれてくることができても、乳幼児期は発育不良になり、呼吸困難や麻痺などの重い症状が現れるんだ。
日本では妊婦さんに対して、初期の段階で梅毒血清反応という検査を必ず実施するし、仮に感染していても管理体制が整備されているから、母子感染のリスクはほとんどないとされてきただけにショックだったよ。
若い女性の感染者が増えるということは、今後も先天性梅毒の患者として誕生する赤ちゃんも増えることが危惧されますよね。
それと、やっぱり風俗も重要な感染源の一つなんですね(うちの旦那さんは大丈夫かしら…?)。新聞記事ではマッチングアプリの普及によって、不特定多数との性交渉を行う機会が増加していることとの関係も指摘されていました。
ところで梅毒に感染すると、どれくらいの潜伏期間を経てから、どのような症状が出るんでしょうか? 梅毒の名前を知らない若い人が多いので、症状がわからないと医療機関の受診するきっかけにならないと思うのですが…。
梅毒トレポネーマ:それはワシが答えてしんぜよう。梅毒は症状の進行を第1期から4期にまで分けることができるんじゃ。
感染すると3週間程度の潜伏期間の後、梅毒が侵入した部位(男性ではペニス、肛門、女性では唇、大小陰唇、子宮頸部など)に軟骨のようなコリコリした小豆サイズのしこりができる。これが第1期じゃ。しこりは痛みを伴うこともなく、2週間程度で自然に消滅するため、この段階では感染に気付かない人も多いのう。
感染してから3か月〜3年の期間が第2期となる。この時期になると、それまで感染部位にとどまっていた梅毒が血流に乗って全身に行き渡っているので、上の写真のように全身の皮膚にピンク色の発疹(ブツブツ)、乾癬、扁平コンジローマ(イボ)、脱毛などさまざまな症状が現れるんじゃ。
ほとんどの梅毒はこの段階で発見されるので、ペニシリン系の抗生物質であるバイシリン (ベンジルペニシリンベンザチン)という薬を大量投与してやれば、たいていは1か月以内に完治しよるわい。
特効薬のペニシリンについては、現代の医師が幕末にタイムスリップするという医療ドラマ「JIN-仁」のなかで、南方先生が解説していたから記憶にある人もおるかもしれんのう。
日本国内で梅毒に感染して、第3期以降(感染から3年以上)に進行する人はまずおらんのだが、一応どんな症状かというと、全身の皮膚、筋肉、骨などにゴム腫と呼ばれる腫瘍ができる。脳にも影響が及び認知障害が出たり、視力や聴力が低下することもある。
感染から10年以上経った第4期では、大動脈瘤や重い認知障害を発症して死亡するものもおる。確かに恐ろしい病気じゃが、進行はゆっくりで発見も難しくないので、ここまで手遅れになることは日本国内ではまずなかろうて。
…というわけだ(言いたいことをほとんど全部持っていかれてしまった)。ひとつ付け加えるなら、エイズを発症した人は梅毒も併発していることが少なくない。もしも梅毒の感染が確認された場合は、パートナーも一緒にHIVの検査を受けよう。
性感染症の予防の基本は勿論、セックスの際にコンドームを着用することだけど、梅毒は肛門、唇など性器以外にも発症するため、キスやフェラチオ、クンニなどでも感染リスクは十分にあるんだよ。だからコンドームだけで「100%」の予防を期待することはできないんだ。あと身近にできることといえば、不特定多数とのセックスや風俗のいわゆる"生"のサービスを控えることくらいかな。