避妊や病気の予防、生理の不快な症状を改善するOC(低用量ピル)の効果と副作用
奈々(看護師):医療機関から厚生労働省に届け出られる1年間の中絶件数は、約30万件って聞いたんですけど凄い数字ですよね。あくまでも優生保護法の指定医からの正式な報告なので、闇中絶(嫌な言葉ですね)を含めると一説には最低でも100万件はあるだろうという意見もありますよね。
先進国の中では結婚後の女性の中絶数はワースト1位とされていますが、日本でのピルの普及率が2〜3%程度と非常に低いことと関係があるのでしょうか?
この中絶数を見せられると、女性としては「男性任せの避妊は頼りない」と感じてピルを使いたくなると思うんですけど…。
雅治(クリニック院長):うん。コンドームの着用を"雰囲気がシラける"、"面倒くさい"、"気持ちよくない"などの自分勝手な理由だけで拒否する男性は論外なんだけど、AVの影響なのか"生で挿入しても、射精しなければ妊娠しない"みたいな感覚で、いわゆる"腹出し"をする男性が日本では非常に多いんだ。
前に話したと思うんだけど、仮に射精までいかなくても、男性のペニスの先からは"カウパー腺液"(ガマン汁)が出ていて、その中には僅かながらも精液が混じっているから、少しでもペニスの挿入があれば妊娠の可能性があるんだ。
それに毎回コンドームを着用していても、正しい使い方をしていないために、6人に1人の女性は望まない妊娠を経験しているんだ。だから、男性にまかせっきりの避妊の信頼度は決して高いわけじゃないんだよ。
で、なんの話だっけ…? そうそう、ピルの話だね。念のため説明すると、婦人科で処方される低用量ピル(OC:Oral Contraceptives)は、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンを主成分とした経口避妊薬のことだよ。
日本国内で経口避妊薬としての低用量ピルの処方が始まったのは1999年なんだけど、残念ながら未だに「将来、妊娠できなくなくなる」「劇太りする」「女性ホルモンをコントールするなんて危険!」という誤解が多くて、広く普及していない。
処方が解禁された当時は、低用量ピルを処方する条件として、婦人科での内診や子宮頸部の細胞診、肝機能や生活習慣病を調べる血液検査、性病の検査などを全額自己負担で受けることが必要だったため、心理的、金銭的なハードルが高かったことも普及の足を引っ張った感じだね。
日本産科婦人科学会が低用量ピルの処方方針を変更した現在は、医師による問診と血圧測定だけに簡素化されたし、検査費用も3,000円程度と大幅に低下したから、多くの女性が気軽に使用できる環境は整っているんだけどな〜。
低用量ピルが存在しなかった1999年以前は、女性ホルモン(エストロゲン)の量が多い、高用量と中用量のピルを避妊用として長期間服用していたので、たしかに一部の患者さんでは副作用が問題となっていましたよね。
でも今日の低用量ピルは、従来のピルに比べてエストロゲンの量が最大で5分の1にまで抑えられており、正しく服用すれば副作用の心配はなく、99.9%の確率で避妊できる"ほぼ確実"な避妊法ですよね。
そうなんだ。ここで一回、ピルを服用することで避妊できる仕組みを簡単に見てみようか。
ピルを服用して血液中の女性ホルモンが増加すると、月経や排卵をコントロールしている脳下垂体は卵巣を休ませようとして、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)の分泌が抑制されるんだ。
その結果、排卵が無くなるので、セックスをしても妊娠しないんだ。また、精子が通過しにくいように子宮頸管の粘液の状態を変化させたり、万が一受精しても受精卵が着床しないように子宮内膜を薄くするという働きもあるんだよ。
ええ。ピルを服用しても排卵が止まるだけなので、生理は通常どおりにありますよね。ピルを服用すると、生理周期がほぼ28日で安定するので、スケジュールを立てやすくなるというメリットも大きいですね。
また、スポーツ、受験、旅行、結婚式などの大事なイベントが控えているという女性は、ピルの飲み方によって生理が来る日をずらすことができるのもポイントですね。このクリニックも受験シーズンになると、母親と一緒に中学生や高校生の女の子がやってきますもんね。
さらに、つらい生理痛や月経前症候群(PMS)、月経困難症の症状を緩和したり、生理の出血量を減少させることで貧血を予防することもできるんですよね。
女性がみずから、"妊娠するかしないか"を決めることができるだけでなく、こういった効用もあるので上手に活用したいですね。
うん。ピルは子宮内膜症による月経困難症を治療する際の第一選択薬となっているよ。
そのほかにも、ニキビなどのお肌のトラブルを改善したり、閉経後の女性が発症しやすい骨粗鬆症を予防したり、排卵回数を抑えることで子宮体がん、卵巣がんの発症リスクを低減させるなどの効果もピルにあることもわかっているんだ。
それにピルは婦人科などの医師に処方してもらう必要があるから、体の健康について考える機会が定期的にやってくるのも、ピルを服用するメリットの一つと言えるかもしれないね。
ただし、血栓ができる可能性をごくわずかに高めるという報告があるので、脳血栓、脳梗塞、心筋梗塞などにかかったことがある人や家族歴のある人は、ピルを慎重に投与する必要があるんですよね。
また高血圧や糖尿病、脂質異常症、肝機能障害がある場合、ピルの処方を希望しても服用できないこともありますね。
喫煙習慣のある女性や肥満の女性は、それ自体が血栓症のリスクを高めることになるので、35歳以上で1日15本以上のタバコを吸う女性はピルを服用できませんね。
その通り。最初の方でもチラッと触れたんだけど、ピルの使用に関する不安や誤解がいくつあると思うので、下にQ&A形式でまとめてみたよ。
ピルを味方につければ、避妊や病気の予防、生理の不快な症状の改善などによって生活の質を向上させることができる。これを読んで気になった人は最寄りの婦人科で相談してみてみよう。
最後にあと一つだけ。ピルはほぼ確実な避妊法だけど、"避妊と性病の予防は別の話"だから、パートナーの男性には今後もコンドームはちゃんと付けもらってからセックスをしよう。
ピルの分類の仕方は二つあるんだ。一つ目は、含まれている黄体ホルモンの種類によって「第1世代」〜「第3世代」と分ける方法。
二つ目は、ホルモンの配合量によって「1相性」〜「3相性」と分ける方法なんだ。これは服用する全ての錠剤のホルモン配合量が同じならば「1相性」、配合の割合が3段階に調節されているものが「3相性」となっているんだ。
国内で最も普及しているのが、"第2世代 3相性"のピルで、具体的には「アンジュ」、「トリキュラー」、「ラベルフィーユ」という名前で処方されているよ。
ピルには大人のニキビの改善作用もあると書いたけど、服用を開始して効果が出るまで平均して3か月くらいかかるんだ。でも「マーベロン」という"第3世代 1相性"のピルは男性ホルモン(アンドロゲン)作用の抑制効果が高いので、1か月くらいでニキビの改善が見られることが多いとされているんだ。
だから大人のニキビで悩んでいる女性にはマーベロンを処方する医師は多いよ。ただし長期服用で気分が落ち込んだり、性欲が低下したという症状を訴える女性もいるんだ。
マーベロンには「ファボワール錠」というジェネリック医薬品もあるから、費用を抑えたいのならそちらを選択してもいいよ。
そのほか、月経困難症のつらい症状を改善させる目的で、「ヤーズ配合錠」という国内初の超低用量ピルが保険適応となっているんだ。黄体ホルモンの成分が新しいタイプなので、世界的には「第4世代」のピルと呼ばれているよ。
ピルは「どれが一番優れているか」ではなく、どれが「自分にあっているか」という基準で選ぶことが大切なんだ。だから一番最初のカウンセリングの際には医師とよく相談しよう。
処方されている低用量ピルには、1シートに21錠入っているものと、28錠入っている2つのタイプがあるんだよ。つまり、マーベロン28の場合は、1シートに28錠入っていることを意味しているんだ。
面白いのは、21錠タイプも28錠タイプのシートも、ピルとして有効なものは21錠しか入っていないってことなんだ。
28錠タイプは、服用し忘れたり、毎日の服用を習慣づけるために、意図的に7錠の偽薬(プラセボ)が付属されているんだよ。
偽薬を服用している期間は言ってみれば、休薬期間となるわけなんだ。だから仮に飲み忘れたとしても、効果に影響はないんだよ。
どの年代の女性にとっても体重の増加は非常に気になることだと思うよ。でも国内で実施されたピルの臨床試験では、大半の人は体重変動が±2kgの範囲だったとされているよ。この数字は、ピルを飲んでいない人の体重変動と同じだから、心配することはないんだ。
現在使用されている安全な低用量ピルが認可されるまでは、本来は治療用とされていた、ホルモン量の多い中用量ピルが避妊用に処方されていたんだ。この中用量ピルの場合、体重が増加することは決して珍しくなかったんだ。
中用量ピルで太る女性が増えた原因は二つあって、まずピルの中の男性ホルモンのような働きをする黄体ホルモンが、体全体の組織を増やすことが関係しているんだ。もう一つは、ピルに含まれる卵胞ホルモンには、腎臓から塩分が排出されるのを防ぐ働きがあるから、その塩分が水分を吸収して、むくむ(浮腫)ことが関係しているんだよ。
簡単にまとめると、ピルで服用して体重が増えたのは余分が脂肪がついて太ったのではなく、体の組織が増えたためのものと、体内に水分が蓄積されてむくみ(浮腫)が起きたものという2つの原因があるんだ。しかし、先述した通り、ホルモン量を抑えた低用量ピルなら、ホルモンによって太る心配はほとんどないと思って大丈夫だよ。
ピルを服用して生理前のイライラや生理痛、不規則な出血などのトラブルが解決されると、体の調子が良くなって食欲が増すために、体重が増加したという話はよく聞く話だけどね。
結論から先に言うと答えは"ノー"だよ。ピルを飲み続けても体内に成分が溜まっていくことはないんだ。
ピルを飲んでいる人が服用をやめてから2年以内に妊娠する確率は約90%なんだけど、この数字はピルを飲んでいない女性の妊娠率となんら変わらないんだ。
卵巣は排卵のたびに、破裂と修復を繰り返しているから、ピルを飲むことは卵巣を休ませることにつながる。その結果、次回の排卵される卵子は"活きがいい"という一面があるから、ピルは不妊治療でも使用されているくらいなんだよ。
不妊の治療中にピルを処方するくらいだから、「ピルを使い続けると将来子供を産めなくなるのでは…」と心配する必要は全くないよ。ピルの飲んでいる間、卵巣が排卵を休んでいて、飲むのを止めるとすぐに体の中で女性ホルモンが働きだして、卵巣から排卵して、妊娠できるようになるよ。
現代の女性は、無化の女性に比べて、妊娠・出産回数が激減しているのはみんなよく知っていると思う。つまりそれだけ排卵の回数が多く、卵巣が常に働き過ぎの状態にあるということだから、その結果、卵巣の病気が増えているんだ。月経のたびに子宮内膜が何回も剥がれ落ちるから、子宮内膜の病気も増加傾向にあるよ。
現代女性に増えているこれらの婦人科系の病気を予防するためにも、ピルは大きな効果を発揮しているんだ。
低用量ピルに含まれる女性ホルモンの量は、文字通り低用量なので、副作用は起こりにくいんだけど、ピルを飲み始めた1か月ちょっとの期間は吐き気や頭痛の症状を訴える人もいるんだ。
これらを「マイナートラブル」と呼んでいるんだけど、多くはホルモン環境の変化に体が戸惑っておこるものなんだ。大半の症状は2か月くらい飲み続けるうちに消えるので、あまり心配する必要はないんだ、
ただし、ピルを長期間服用して吐き気や頭痛が頻繁に起きる場合は、ピルを処方してもらった婦人科の医師に相談して、別のピルを処方してもらうようにしよう。
飲み忘れてから24時間以内なら、飲み忘れに気がついた時点で1錠飲めば問題ないよ。次回の分は普段通りの時間で飲んで大丈夫なんだ。
飲み忘れから24時間が経過して前日の分を飲めなかった場合には、前日分と当日分を一緒に飲めばOKだ。この場合、ピル本来の避妊効果が期待できないことがあるので、向こう1週間はコンドームの併用が必要となる。
じゃあ、2回続けてを飲み忘れたら…3回分を一緒に飲むかと言えば答えは"ノー"なんだ。この場合はそのピルのシートは中止して、次の生理が始まった時点で新しいシートで再開する必要があるんだよ。
この場合も本来の避妊効果が期待できないから、コンドームなどのほかの避妊法を併用する必要があるよ。流石に2回続けて「飲み忘れる」ということは考えにくいから、旅行や出張などにピルを携帯するのを忘れた時かな。
どうだったかな?次回はピルが有効な女性の悩み(生理不順、生理痛、月経困難症、月経前症候群ほか)を年代別に見ていくよ。