ヒトパピローマウイルス(HPV)が怒る!「公費負担があるのに子宮頸がん検診の受診率が40%代前半だと?俺たちを舐めてんのか?」
奈々(看護師):あ、これはアップルのiPod!久しぶりに見ました。そうか先生はジョギングするときに音楽を聴くから、重たいスマホよりも携帯型音楽プレイヤーの方がいいんですね。
どんな曲を聴いてるんですか…"ZARD"!懐かしいですね。「負けないで」や「揺れる想い」もいいですけど、私は「もっと近くで君の横顔見ていたい」が一番のお気に入りです。そういえば、ZARDの坂井泉水さんは30代の若さで子宮頸がんを発症されたんですよね。
雅治(クリニック院長):うん。一昔前まではがんと言えば、60歳以上の高齢者が発症するイメージが強かったんだけど、近年は若い人にも発症が増えているよね。婦人科系のがんも長い間、40代以降のがんのされてきたけど、現在は20代で乳がんや子宮頸がんを発症する人も珍しくないから注意が必要なんだ。
子宮頸がんは、坂井泉水さんのほかにも、向井亜紀さん(女優・タレント)、大竹しのぶさん(女優)、仁科亜希子さん(女優)、原千晶さん(タレント)など、多くの有名人が発症しており、子宮を全部摘出した人も少なくない。
日本国内では毎年約15,000人の女性が新たに子宮頸がんを発症していて、毎年約3,500人が亡くなっているんだ。子宮頸がんの特筆すべき傾向としては、この10年ちょっとで20〜30代の若い世代の発症者数が約2倍も増加していること。
ちなみに女性に一番多いがんは乳がんで、年間の患者数は約90,000人、死亡者数は約14,000人(国立がんセンター「2015年のがん統計予測」より)とされて、乳がんも30代の発症者が増加傾向にあるんだ。
20〜30代って働き盛りですし、結婚して小さい子供がいる女性もたくさんいるはずだから、本人やそのご家族だけではなく、社会にとっても大きな損失ですよね。
子宮頸がんも乳がんも検診で早期発見が難しくなく、早期に治療を開始できれば予後も良好なのに、検診受診率が低いってもったいないですよね。2013年の「国民生活基礎調査」によると、子宮頸がん検診の受診率は42.1%、乳がん検診の受診率は43.4%となっていますね。
ホントそうだね。日本は検診の公費制度も充実しているし、高性能の画像診断装置も普及している。それでも欧米の先進国に比べると、がん検診の受診率は低空飛行の状態が続いている。
検診をがんの死亡者数減少につなげるためには、もっと多くの人にがんの早期発見と検診の重要性を理解してもらって、受診率を上昇させることが必要と言われているんだ。
…というわけで、今日は子宮頸がんの発症と深い関係にある"ヒトパピローマウイルス(HPV)"をゲストとしてこのクリニックに呼んでいるんだ。おーい、出番だからこっち来て、自己紹介してくれるかな?
ヒトパピローマウイルス(HPV):よう!俺が嫌われ者のヒトパピローマウイルスだ。ふーっ、やっと呼ばれたか。前フリが長すぎるんだよ、先生。待合室の女性雑誌を全部読み終わっても、まだ二人で話してるんだもんな。
えーと、簡単な自己紹介だっけ? 俺たちヒトパピローマウイルスは、女性の外陰部、男性のペニスや陰嚢(いわゆる玉袋だ!)などの皮膚や粘膜を住処としている。そして、セックスやフェラチオなどを感染経路として子宮や口腔の小さな傷口から体内に侵入するんだ。
ヒトパピローマウイルスは100種類以上が存在していて、尖圭コンジローマなどを引き起こす「低リスク型」と子宮頸がん、膣がん、陰茎がんなどを引き起こす「高リスク型」に分類されている。
子宮頸がんの原因となる「高リスク型」には、16、18、31、33、35、39…と13個の型があるが、日本人の子宮頸がんの多くは「16型」と「18型」のヒトパピローマウイルスが原因となっている。ちなみに俺は16型だ。こんな感じでいいのか?
うん。ヒトパピローマウイルスはセックスを感染経路としているけれど、その感染自体は決して珍しいものではなく、セックスの経験のあるほとんどの女性は生涯に1度感染するとされているんだ。
この事実だけを見ると、不安に思ってしまうかもしれないけれど、感染者の約90%は体に備わっている免疫の力でヒトパピローマウイルスは自然に排除されるから心配いらないんだ。
残された約10%の感染者は、感染が長期化するため、ヒトパピローマウイルスによって細胞が徐々に変化をはじめるんだ。この変化は「異形成」といい、がんの手前の状態なんだ。
つまり、まだ子宮頸がんは発症していない。変化の度合いが小さい「軽度異形成」や「中等度異形成」と呼ばれる段階であれば、自身の免疫力で正常な細胞の状態に戻すことができる。
仮に変化の度合いが大きい「高度異形成」の段階に進行してしまっても、円錐切除という手術で完治できる。繰り返しになるけども、この段階でも、まだ子宮頸がんは発症していないからね。
そうゆうことだな。高リスク型のヒトパピローマウイルスに感染して、免疫力で自然排除されない場合、異形成が始まるまでには約3年の時間がかかる。
最近の女子は初めてセックスをする年齢が低年齢化しているから、高校生で初体験をした場合、20歳で細胞に異常が見つかることも十分にあり得る。
子宮がん検診では、子宮頸管の壁をブラシやヘラ、細長い綿棒などで擦って細胞を採取して調べる「細胞診」が行われるので、この年齢で検診を受けるのは決して早すぎるということはないぞ。
子宮頸がん検診を受けていないで、がんの一歩手前の状態の「高度異形成」をそのまま放置していると、次の段階に進んでしまう。つまり、子宮頸がんを発症するんだ。
がんが上皮細胞内に留まっているホントの初期の段階で発見できれば、予後は極めて良好(5年生存率はほぼ100%)だけど、がんが進行すると、子宮を全部摘出しなければならないこともあるんだよ。
自身の生命を守るためとはいえ、将来の妊娠・出産を希望している若い女性にとっては、精神的な苦痛の大きい決断をすることになる。
ヒトパピローマウイルスに感染した場合、免疫でウイルスが排除されずに長期感染の状態になり、細胞の異形成が起こり、さらに子宮頸がんの発症にまで至る確率は約0.1%と言われているんだよ。
つまり、ウイルスに感染した人の約1000人に1人が、何もしなければ子宮頸がんを発症することになる。そうなる前に検診を受けて、もしもの場合でも「早期治療」のタイミングを逃さないようにするのが大切なことなんだよ。
フムフム。高リスク型のヒトパピローマウイルスに感染したからと言って、即、子宮頸がんになるわけではないんですね。学術的には、ヒトパピローマウイルスの感染が「性感染症(STD)」ではなく、「性感染(STI)」と呼ばれているのは、ウイルスの感染自体はまだ「病気」ではないからなんですね。
「子宮頸がんはワクチンで予防できる唯一のがん」ということで、現在、国内でも子宮頸がんワクチンが使用されていますが、ワクチンを接種した人でも子宮頸がん検診は受けた方がいいんですか?
その子宮頸がんワクチンとは、下の写真にある「サーバリックス(グラクソ・スミスクライン社)」と「ガーダシル(MSD社)」のことだな。結論から言おう。これらのワクチン接種を受けていても、子宮頸がん検診は必要だ。
なぜなら、これらのワクチンが対象としている子宮頸がんのヒトパピローマウイルスは16型と18型だけだからだ。確かに日本人の子宮頸がんの原因の多くは、16型と18型だ。
しかし、上の方で先生が述べているように、子宮頸がんのハイリスク型に分類されるヒトパピローマウイルスは16型と18型以外にも11種類もある。この11種類の長期感染を発見するためには、2年に1回の頻度で子宮頸がん検診を受けることが大切なんだぜ。
最近は自治体が子宮頸がん検診の「無料クーポン」を配布しているところも多いから、詳しくは住んでいる自治体のホームページなどをチェックしてみるとよいぞ。
なぜ毎年の受診ではなく、2年に1回でいいのかって? なかなか鋭い質問だ。その答えは…(アレ、なんだっけ??思い出せない…!)まぁ、俺が答えてやってもいいんだが、せっかくだからここは専門家の先生に発言の機会を譲ってやろう。
(…ったく、ウイルス本人なのに理由を知らないのか)えーとだね。さっき、がんの前の段階である細胞の「異形成」の話をしたけれど、この異形成から進行がんになるまでは、おおよそ3〜10年かかるとされているんだ。
つまり、多くの場合でその進行スピードは緩やかだから、毎年検診を受けるのも、2年に1回受けるのも効果という点では変わらないんだ。だから2年に1回でも十分というのが現在の考え方なんだ。
細胞の異形成が必ずしもがんに進行するわけではないし、子宮は赤ちゃんを育てる大切な臓器でもあるよね。だから異形成が見つかっても、しばらく経過を観察して、それでも自然治癒しなかったら手術をする医師も少なくないんだ。
その一方、リスクは早目に対処するのがベストという考えで直ぐに手術を勧める医師もいる。そういう訳で経過観察と直ぐに手術をする選択肢のどちらがいいかは一概には判断できないんだ。
子宮頸がんは、進行しても自覚症状に乏しいのが特徴で、あったとしても性交後に出血だったり、血が混じったオリモノがたまに出る程度なんだ。これらの不正出血が見られたなら、子宮頸がんの可能性も考えて、一度婦人科を受診して検査を受けよう。