単純ヘルペスウイルスの信条!「惚れた女には何度でも再発して、性感染症としての誠意を示す」

 

雅治(クリニック院長):…じゃあ、お大事にどうぞ。ふー、今週の診察はこれで終わりか。なんだか疲れた一週間だったな。そういえば、午後の診察にきてた北川さんは、膣カンジダの再発の治療で今年だけでも3回はこのクリニックを受診してたよね。

20代から30代の女性は、仕事もプライベートも忙しいから生活リズムが崩れがちだし、人間関係のストレス、生理などで免疫力が低下しがちだから、どうしてもカンジダが再発しやすいんだ。

膣カンジダと同様に何度も再発して、多くの女性を悩まし続けている性感染症がもう一つあるけど、当然、奈々ちゃんは知って…ん? 診察室をノックする音がする。すいませーん、今日の診察はもう終わり…ウワッ!!!

 

単純ヘルペスウイルス:"何度も再発して、多くの女性を悩まし続けている"とは、ひょっとして拙者のことでござるか? 誤解なきよう言っておくが、拙者には女性を悩ませようという、やましい気持ちはさらさらない。その女性だけを一途に思い続けているからこそ、何度も何度も再発しているだけだ。

ん?相手が嫌がっているだと? これだから恋愛下手の現代人は困るというもの。あれは嫌な振りをして、拙者の気をさらに惹こうという、大和撫子ならではの恋の作法というやつだよ。

おっと、申し遅れてた。拙者の名は"単純ヘルペスウイルス2型"、覚えにくければ"二郎"と呼んでもらっても構わん。

 

奈々(看護師):なんだか大分こじらせてしまったようね。それにそのビジュアルで時代劇のような喋り方…なんだか混乱しちゃうわ。

 

ここで無下に追い返してしまい、他の女性に感染されてしまっても目覚めが悪い。しょうがないな、今日は少しの間、性器ヘルペスについて復習してみようか。性器ヘルペスは、以前に話をしたクラミジア感染症、淋病に次いで多くの感染者数が報告されている性感染症なんだ。

ヘルペスの水ぶくれの写真

主にセックスを介することで、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)に感染し、2〜10日程度の潜伏期間の後、膣・大小陰唇・会陰部やお尻の周辺に痒みを伴う水ぶくれ(写真参照)ができる。

水ぶくれはやがて破れて潰瘍(ただれ)ができるんだけど、これがすごく痛いんだ。感染が外陰部だけでなく、子宮頸管や膀胱にまで及ぶことも少なくないから、下半身のあちこちに痛みを感じることになる。また、脚の付け根部分のリンパ節が腫れあがったり、38℃以上の高熱、排尿困難や便秘などの症状を訴える人もいるんだよ。

排尿時にオシッコが染みたり、お風呂でお湯が染みたりして性器周辺にシカシカ、ヒリヒリした痛みを感じて初めて感染に気がつくこともある。一般的に女性の方が症状は重症化しやすいと言われているよ。

 

そなたの言う通りだ。一つ付け加えるなら、従来の性器ヘルペスは、確かに単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)の感染が主な原因だったが、現代人は口による類似性行為(主にフェラチオ)を行っているから、事情が多少違ってきている。

ヘルペスの感染ルート

どういうことか上の図で説明するとしよう。口に病変が現れる単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に感染している女性がフェラチオをすると、男性のペニスに単純ヘルペスウイルス1型が感染して水ぶくれや潰瘍ができる。

また、ペニスに単純ヘルペスウイルス2型が感染している男性に対してフェラチオを行えば、女性の口唇にウイルスが感染して、病変が現れることもある。このように2つある単純ヘルペスウイルスの境界線が曖昧になってきているのだ。

 

クラミジア感染症淋病梅毒、そして性器ヘルペス…。フェラチオが一般のカップルにも広く普及してから、口唇や喉に感染を拡大させている性感染症が増えてきているのね。それに先生が冒頭で少し触れてましたけど、性器ヘルペスは何度も再発を繰り返すんですよね?

 

そうなんだ。性器ヘルペスの不快な症状は、アシクロビル(製品名:ゾビラックス)やバラシクロビル(製品名:バルトレックス)という抗ウイルス剤を服用したり、重症例では点滴することで鎮めることができるんだけど、ウイルスの存在そのものを排除することはできないんだ。

バルトレックスの錠剤

だから症状はキレイサッパリ消えても、単純ヘルペスウイルスは神経の根っこ(神経節)に潜伏しており、感染は続いたままなんだよ。そして過労やストレス、睡眠不足、抗生物質の服用による免疫力の低下やセックスの刺激などがきっかけとなって、再活動をはじめ、皮膚や粘膜に再発症状が出るんだよ。

単純ヘルペスウイルスに感染して初めて症状が出た人の場合、1年以内に再発する確率は約80%とされている。再発時の症状は軽く、治療期間も短くて済むんだけど、多い人だと年に10回くらい再発する人もいるから生活に大きな支障をきたしてしまう。

再発時も治療はアシクロビルとバラシクロビルの錠剤を使用するけど、軽症の場合はアシクロビルの軟膏などを使用することもある。

再発時の症状がいくら軽いからといっても、女性は「今度はいつ再発するんだろ…?」とか「彼氏も感染させてしまったらどうしよう…私たちの関係もギクシャクしちゃうのかな?」といった不安を抱えながら毎日過ごすことになるから、ストレスが凄く溜まるよね。

 

水ぶくれや潰瘍ができた時には、拙者たちは既に神経節に潜伏しておるので、いかに素早く抗ウイルス剤を使用しても、再発を避けることはできない。一度惚れた女に対しては、何度でも再発して性病としての誠意を見せるのが、性病の正しい生き様だと解釈しておる。

 

それ人間の世界だと、ストーカー男にDVの要素まで加わったようなものだから、一番嫌われるタイプだと思うぞ…。

妊婦さんが分娩時に発症すると、生まれてきた赤ちゃんも新生児ヘルペスを発症するリスクがあるんだ。新生児ヘルペスは予後が悪く、残念ながら約20%は死に至る。母子感染のリスクは、単純ヘルペスウイルスに初めて感染した妊婦さんでは 50%と非常に高い一方で、再発例では0〜5%と低い。

ただし、妊婦さんの性器にヘルペス性の病変が認められた場合、帝王切開による分娩で母子感染は予防できるので、あまり怖がる必要はないと思うよ。

男性が性器ヘルペスウイルスに感染しているならば、交際相手の女性が感染する確率は1年で30%ほどある。性器周辺に皮膚炎などがある女性は、皮膚の防御機能が低下しているので、感染率はさらに上昇するから気をつけないといけないよ。

また性器ヘルペスの病変が現れる部位は、コンドームがカバーできる範囲を超えているので、男性パートナーに毎回コンドームを着用してもらってセックスをしても、感染を100%防ぐことはできないんだ。

女性が発症した場合、感染源の男性パートナーの多くは自覚症状がないから、一緒に医療機関を受診して、検査と治療を進めることが大切だよ。

 

あと先生、性器ヘルペスが1年間に6回以上も再発してしまう重症の患者さんを対象に行う「再発抑制療法」も保険適用になっていますよね。

抗ウイルス剤(バラシクロビル)を1年間にわたり服用することで、60〜70%もの患者さんで再発が予防できるとして、世界的に実施されていますね。

再発を予防するために日常生活で気をつけることは、免疫力を高めること。そのためには、@偏食をしないでバランスよく栄養を摂取する、A不規則な生活はしない、B十分な睡眠時間を確保することを心掛けたいですね。女性は生理中に免疫力が低下しやすいので、特に注意が必要なのよ。